猫 西洋医学の症例
症例紹介 目次
① 猫アトピ-症候群(喘息および皮膚炎の併発例)
② 二次感染(真菌・細菌)を併発した猫のアレルギー性皮膚疾患
③ 猫の高血圧による眼底出血:早期発見が視力を守る決め手
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【症例紹介① 猫アトピー症候群(喘息および皮膚炎の併発例)】
「長引く咳」と「繰り返す皮膚の痒み」に対し、検査に基づいた診断とライフスタイルに合わせた治療法の選択で、健やかなシニア期を維持しているソマリのTちゃんの事例です。
1. 患者情報
- 患者: ソマリ(Tちゃん) オス 荒川区
- 初診時: 9歳5か月(2022年9月)
- 現在: 12歳10か月(通院3年5ヶ月 継続中)
- 主な症状: 咳、耳の痒み、下腹部の広範囲な湿疹
2. 初診時の検査と診断
他院では外用薬のみの処置でしたが、当院では全身状態を把握するため詳細な検査を行いました。
- 身体診察・皮膚検査: 顔面の発赤、皮膚の苔癬化(厚くなる状態)、湿疹を確認。スタンプ検査では細菌だけでなく、アレルギーに関与する「好酸球」などが確認されました。
- 胸部レントゲン: 心臓や大動脈の拡大に加え、気管支に中程度の炎症パターンが認められました。
- 血液検査: 白血球数が27,900と上昇し、特にアレルギーや寄生虫反応を示す「好酸球」「好塩基球」が顕著に増加していました。
【診断:猫アトピー症候群(気管支喘息および猫アトピー性皮膚症候群)】
皮膚だけでなく呼吸器にもアレルギー症状が出た状態と判断。
3. 治療の変遷:副作用を抑え、効果を最大化するために
Tちゃんの治療は、お薬の効果と副作用のバランスを見極めながら、数段階のステップを踏んで最適化していきました。
- ステップ1(初期): ステロイドと抗生剤の内服、低アレルギー食を開始。4週間でレントゲン所見と血液数値が劇的に改善し、ステロイドを週2回まで減量できました。
- ステップ2(再発と調整): 湿疹の再発に伴い、お薬を調整。ステロイドを減らすために免疫抑制剤(シクロスポリン)を併用し、一時は咳も痒みも消失しました。
- ステップ3(吸入療法への切り替え): 毎日の投薬がTちゃんの負担(投薬困難)となり、一時は気管支の状態が悪化。そこで2024年6月(11歳時)より、**エアロキャットを用いた吸入療法(フルタイド)**に切り替えました。
4. 現在の状況
12歳10か月になった現在、Tちゃんは吸入療法にすっかり慣れ、ステロイドの内服を完全に休薬できています。咳や痒みも気にならない程度まで減少し、食事管理との相乗効果で、安定したQOL(生活の質)を維持しています。
👨⚕️主治医の意見
猫アトピー症候群は、生涯にわたるお付き合いが必要な病気です。ステロイドや免疫抑制剤は非常に有効ですが、長期使用による全身性の副作用には細心の注意を払わなければなりません。
Tちゃんのように、内服が難しい子や副作用を抑えたい子にとって、ステロイドの吸入療法は非常に優れた選択肢です。全身への影響を最小限に抑えつつ、ダイレクトに気道へ作用します。多くの猫ちゃんが数週間の練習で吸入を受け入れてくれますので、喘息でお悩みの場合はぜひトライしていただきたい治療法です。
副作用・リスク
- ステロイドの内服は、長期使用で肝機能低下や糖尿病のリスクを高める可能性があり、定期的な血液検査が必須です。
- 吸入療法は正しく装着・吸入できないと十分な効果が得られない場合があります。
ご注意点
・猫アトピー症候群は個体差が大きく、生活環境や食事、性格に合わせたオーダーメイドな治療設計が必要です。
【症例紹介② 二次感染(真菌・細菌)を併発した猫のアレルギー性皮膚疾患 】
「眠れないほどの激しい痒み」と「重度の脱毛」に対し、詳細な皮膚検査に基づいた二次感染の特定と、猫ちゃんの性格(投薬の可否)に合わせた段階的な治療により、心身ともに健やかさを取り戻した日本猫の女の子の症例です。
1. 患者情報
- 患者: 日本猫(メス) 荒川区
- 初診時: 5歳8か月(2025年10月10日)
- 治療期間: 約4ヶ月(2026年2月3日 治療終了)
- 主な症状: 顔面・耳介・頚部全周の激しい痒み、脱毛、重度の湿疹、痂皮(かさぶた)形成、食欲不振
2. 初診時の検査と診断
半年前からの脱毛と痒みで、他院にて治療を受けていました。ステロイド注射(長時間作用型)を2週間間隔で3回接種も改善が見られず、逆に痒みが増して脱毛が広がり、精神的にも疲弊している状態で来院されました。
- 身体診察・皮膚検査: 顔面から首にかけて広範囲な脱毛と、自ら掻き壊したことによる重度の湿疹と痂疲を確認。
- スタンプスメア検査: 細菌(球菌)および変性好中球を確認(膿皮症のサイン)。
- 真菌培養検査: 陽性(皮膚糸状菌症の併発)。
- 寄生虫検査: ノミ・ダニは陰性。
【診断:二次感染(膿皮症・皮膚真菌症)を併発したアレルギー性皮膚疾患】
アレルギー体質をベースに、ステロイド使用による免疫抑制が引き金となり、カビ(真菌)や細菌の二次感染が深刻化している状態と判断しました。
3. 治療経過:猫の「投薬ストレス」と「メンタル」への配慮
猫ちゃんは投薬や食事管理のハードルが高いことを考慮し、飼い主さんと相談しながら「今できる最善」を組み合わせていきました。
- ステップ1(感染症への直接介入): ステロイド注射を中止。膿皮症に対しては2週間持続する抗生剤(セフォベシン)を注射。真菌に対してはイトラコナゾールの内服を開始しましたが、飲めない場合に備え抗真菌作用のある外用療法も併用しました。ノミダニの予防薬はスポット剤を投与しました。
- ステップ2(痒みと心のケア): ステロイドの代わりに、猫でも比較的受け入れやすいアポキルを処方。さらに、長引く痒みで過敏になったメンタルを落ち着かせるため、安定剤(ガバペン)やサプリメント(ジルケーン)を導入しました。
- ステップ3(食事・環境管理): 食物アレルギーの関与を疑い、療法食(ヒルズz/d)を徹底。投薬を補助するアイテム以外は一切与えない「除去食試験」を継続していただきました。
4. 最終的な状況
2026年2月3日、真菌培養検査の陰性を確認。脱毛部位には毛が生え揃い、あれほど激しかった痒みも消失しました。
何より大きな変化は、猫ちゃんの表情と行動です。痒みで夜も眠れず部屋の隅に隠れていた子が、**今では飼い主さんの布団に入って甘え、同居猫と元気に遊べるまでになりました。**体重も治療中の最低値2.75kgから、終了時には3.45kg(標準体型)まで回復しました。
👨⚕️ 主治医の意見
慢性化した猫の皮膚病は、単なる「アレルギー」として片付けられない複雑な背景を持っています。今回の症例のように、痒みを抑えるためのステロイドが、結果として真菌などの二次感染を悪化させていたケースは少なくありません。
猫ちゃんの治療において最大の壁は「投薬」です。私たちは「正しい治療」を押し付けるのではなく、注射薬の活用や、飲みやすい剤型の選択、さらには痒みによるメンタル疲弊へのアプローチなど、その子とご家族が継続できる方法を一緒に模索することを大切にしています。一進一退の時期もありましたが、最後まで諦めずに寄り添ってくださった飼い主さんのご協力が、今回の改善に繋がりました。
副作用・リスク
- 抗真菌薬(イトラコナゾール)の内服薬で、肝数値の上昇が見られる場合があります。
- 長期の食事管理が必要であり、規定以外の食べ物を与えると診断や治療が困難になる場合があります。
ご注意点
- 皮膚疾患の治療経過には個体差があります。二次感染の有無を正確に把握するため、定期的な皮膚検査と経過観察が不可欠です。
「眼が突然赤くなった」という主訴から、背景にある高血圧を診断し。適切な降圧治療によって17歳の現在まで健やかな生活を維持しているTちゃんの症例です。
1. 患者情報・タイムライン
- 患者: スコティッシュフォールド(Tちゃん) オス
- 初診時: 11歳(2019年5月)
- 現在: 17歳9か月
- 主な症状: 今朝から右眼が赤くなった(前房出血)
2. 検査と診断
眼の中の出血は全身疾患のサインである可能性を考慮し、眼科検査と併せて血圧測定を行いました。
- 眼科検査: 右眼の眼圧が32mmHgと上昇(左は20mmHg)。エコー検査では右眼にわずかな網膜剥離を疑う所見を認め、左眼の眼底検査では血管の拡張と蛇行が認められました。
- 血圧測定: 186/110mmHgという顕著な高血圧が確認されました。
- 血液検査: 腎機能や甲状腺ホルモンは正常であり、「特発性(原因が特定しきれない)の高血圧」と判断しました。
【診断:高血圧による眼底出血および網膜剥離(疑い)】
血圧が高すぎるために眼底の血管が耐えきれずに出血、網膜にも影響を与えている状態でした。
3. 治療と経過:
高血圧は放置すると失明だけでなく、心臓や腎臓、脳へも深刻なダメージを与えます。
- 初期治療: 降圧剤(カルシウムチャンネルブロッカー)の1日1回の内服を開始。
- 迅速な回復: 治療開始7日後には眼圧が正常化し、出血も改善。2週間後には網膜剥離を疑う所見もなくなり、両眼とも正常な状態に戻りました。早期の受診により、失明を回避することができました。
- 長期の管理: 内服の間隔が空くと血圧が再上昇するため、定期的な来院と血圧測定を定期的に行っています。
4. 現在の状況
現在17歳9か月になったTちゃん。 高齢ではありますが定期的な血圧管理により、トラブルもなく元気に過ごしています。高血圧が悪化させるリスクのある腎臓や甲状腺機能も、定期的な血液検査と尿検査で経過観察をしています。
「猫の眼が赤い、出血している」という症状の裏には高血圧があります。網膜剥離が起きてから時間が経過すると、残念ながら失明を免れません。Tちゃんの場合、異変に気づいた当日の朝に来院されたことが、視力を守れた最大の要因です。
猫の高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれ、症状が出た時には病状が進んでいることが多々あります。また、ストレスや生活環境も血圧に影響します。10歳を過ぎたら、元気に見えても定期的な血圧測定を行うことが、シニア期のQOLを支える鍵となります。
副作用・リスク
・降圧剤により稀に低血圧(ふらつき、元気消失)が起こる場合があります。低用量から開始し、慎重なモニタリングが必要です。
・長期使用により、まれに歯肉の過形成が見られる場合がありますが、休薬や調整で改善可能です。
注意点
・慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症のため、高血圧を合併していることが多いため、全身の定期チェックが不可欠です。




