犬 東洋医学の症例

症例紹介 目次

① 前庭疾患

② 成長期の膝蓋骨脱臼(パテラ)と虚弱体質

③ 長引く咳と全身の活力低下に対する多角的ケア

④ 大学病院で「慢性鼻炎」と診断された長引く鼻づまり・逆くしゃみ

⑤ ヘルニア手術後の後遺症と新たな歩行困難に対するリハビリケア

⑥ 繰り返す首・腰の痛みを整える「痛くない」鍼灸ケア

⑦ 14歳のシニア犬:精神的な不安からくる「吠え」と「長引く下痢」へのアプローチ

⑧ 15歳のシニア犬:認知症状やふらつきに対する「統合医療」でのサポート

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【 症例紹介① 前庭疾患 】

繰り返す前庭疾患に伴う「ふらつき」と「首の傾き」への東洋医学的ケア

13歳のシュナウザー、Mちゃん。2度目の前庭疾患による歩行困難に対し、鍼灸と漢方薬で全身のバランスを整え、機能回復をサポートした事例をご紹介します。

1.
患者情報・主訴
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患者: ミニチュア・シュナウザー(Mちゃん) 13歳 オス 江東区
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初診日: 202412
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主な症状: * 首と体が左側に曲がってしまう(捻転斜頸)
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後ろ足がクロスしてしまい、うまく踏ん張れない
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立とうとするとバランスが取れず、パニックになってしまう
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これまでの経過: 20249月に一度目の前庭疾患を発症。その際の精密検査(MRI)では異常なしとの診断でした。
今回は2度目の発症となり、日常生活に支えが必要な状態で来院されました。

2.
当院の東洋医学的アプローチ
東洋医学では、ふらつきや急激な体の変化を「風(ふう)」の動きと捉え、体内を巡るエネルギーを落ち着かせる治療を行います。
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内風(ないふう)を鎮める: 体の中で起きている「揺れ」を鎮め、平衡感覚をサポートするツボを刺激しました。
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「腎(じん)」と「肝(かん)」のケア: 13歳という年齢を考慮し、足腰の粘り強さを司る「腎」と、神経や筋肉の動きを司る「肝」を漢方薬で補いました。
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精神的な安定: パニック症状を和らげるため、自律神経を整え、リラックスを促す施術を併用しました。

3.
治療経過
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初期(1ヶ月目): 週に1回のペースで鍼灸治療と漢方薬の内服を開始。初診から2週間後には、首をまっすぐに保持できる時間が増えていきました。
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中期(2ヶ月目): 徐々にふらつきが減り、お散歩の時間も延びていきました。後ろ足のクロスも解消され、しっかりと地面を踏みしめて歩けるようになりました。
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大きな一歩: 治療開始から6週間後、バランスを崩すことなく「足を上げておしっこ」ができるまでに回復しました。

4.
現在の状況(2026.2)
現在は、年齢に伴う体力の衰えや、新たに出てくる不調に対し、間隔を空けながら定期的なメンテナンスを継続しています。
M
ちゃんはいつも気持ちよさそうに鍼灸を受けてくれており、そのリラックスした時間が、シニア期のQOL(生活の質)を支える大切なベースアップのお手伝いとなっています。


副作用・リスク:加齢に伴う変化は個体差が大きく、すべての症例で完全な機能回復を保証するものではありません。

ご注意点:本症例は鍼灸・漢方によって生活の質が改善された一例です。脳内の器質的疾患が疑われる場合は、二次診療施設との連携が必要な場合があります。

 

 

【 症例紹介② 成長期の膝蓋骨脱臼(パテラ)と虚弱体質

パピー期に見つかった膝のトラブルに対し、手術を選択する前に「自分の力で支える体」を鍼灸で育み、成犬となった今も良好な状態を維持している事例です。

1.
患者情報
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患者: チワワ(Pちゃん) 荒川区
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初診時: 生後8か月(2022年5月〜)
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現在: 5歳(通院3年9カ月 継続中)
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通院ペース: 最初は2週間おき現在は月に1回の定期メンテナンス

2.
これまでの経過
生後8か月の頃、左後ろ足を挙げて歩く(ケンケンする)様子が見られ来院されました。診断は「先天的な膝蓋骨脱臼(パテラ)」。左がグレード12、右がグレード1という状態でした。当時のPちゃんは食が細く、体つきも華奢で、筋肉がつきにくい虚弱体質な面も見受けられました。

3.
当院の東洋医学的アプローチ
成長期であることを考慮し、お薬に頼るのではなく、鍼灸によって「気・血」の巡りを整え、成長を内側からサポートする方針を採りました。
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筋力と関節のサポート: 膝周りのツボを刺激し、関節を支える筋肉が正しく発達するよう促しました。
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「脾(消化器)」の強化: 食べることに興味がない「食の細さ」を改善するため、消化吸収機能を高める施術を行いました。
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全身のベースアップ: 鍼灸治療のみでアプローチし、Pちゃん自身の「育つ力」を引き出すことに注力しました。

4.
治療経過
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初期(8か月〜1歳): 治療を開始して間もなく、足を挙げて歩く様子は見られなくなりました。
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成長の変化: 以前は痩せていて筋肉も細かったPちゃんですが、徐々に食欲が出て、現在は理想的な標準体型に。以前は時々出ていた湿疹や下痢もすっかり落ち着きました。
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現在: 5歳になった今も、月に一度の鍼灸メンテナンスを欠かさず継続中で、元気に走り回っています。
先代のワンちゃんたちも当院の鍼灸に通ってくださっていたご家族のもと、Pちゃんもお灸が大好きに。お家で毎日欠かさずお灸をしてくださっていることが、5歳になった今の力強い体を作っています。


副作用・リスク:・パテラのグレード進行が見られる場合は、外科手術が必要になる可能性があります。
・成長期は骨格の変化が早いため、こまめなチェックが必要です。

ご注意点:本症例は鍼灸治療によって関節周囲の環境を整えた一例であり、すべての脱臼症例において手術が不要になることを保証するものではありません。

 

 

【症例紹介③ シニア期の長引く咳と全身の活力低下に対する多角的なケア 】

蛋白漏出性腸症(PLE)や心疾患などの持病を抱えながら、鍼灸と漢方薬で日々の生活の質(QOL)を整えているトイプードルのFちゃんの経過をご紹介します。

1.
患者情報・主訴
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患者: トイプードル(Fちゃん) 13歳 オス 台東区
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初診日: 20249
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主な症状: * 10ヶ月前から続く咳
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後ろ足(特に左側)のふらつき、しっぽが下がっている
   *
震え、疲れやすさ、朝の食欲不振
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これまでの経過:かかりつけ医で 2年前に「蛋白漏出性腸症」の診断を受け、ステロイド(プレドニゾロン)を内服中。また「僧帽弁閉鎖不全」への投薬に加え、咳に対して抗生剤、去痰剤、気管支拡張薬などを併用されていました。

2.
当院の東洋医学的アプローチ
複数の持病により体力が低下し、体内の「気(エネルギー)」が不足している状態と考え、以下のアプローチを行いました。
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呼吸器と消化器の連動: 東洋医学では「呼吸器」と「消化器(お腹)」は密接に関係していると考えます。持病の影響で弱っていたお腹の働きを補い、咳の出にくい体質作りをサポートしました。
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足腰へのアプローチ: 足の力が入らない状態に対し、血流や神経の伝達を助ける経絡(ツボの道)を刺激する施術を行いました。
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オーダーメイドの漢方処方: 季節やその時々の症状の波に合わせ、漢方薬の種類や量を細かく調整しています。

3.
治療経過
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初期(9月〜11月): 鍼灸と漢方薬を開始して1週間後、咳の頻度が落ち着き、しっぽが上がる様子が確認されました。その後、2週間ほどで朝の食欲も安定。初診から2ヶ月経つ頃には、お散歩で走る姿も見られるようになりました。
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維持期(20262月現在): 現在は23週間おきに通院を継続されています。季節の変わり目などに咳が一時的に強まることもありますが、その都度漢方薬の調整や鍼灸治療を行うことで、全体的な調子は安定しています。ご家族からも「近頃は走り回って大変です」とのお声をいただいております。

4.
その子に合わせた治療環境
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ちゃんはお母様がそばにいると治療に集中しにくい特性があるため、施術の間のみスタッフがお預かりしています。その子の性格に合わせ、最もリラックスできる環境で治療を受けていただけるよう配慮しています。

副作用・リスク:・持病(PLE、心疾患)がある場合、その時々の体調により施術内容の調整が必要です。
・漢方薬により、稀に軟便等の消化器症状が出る場合があります。

ご注意点:本症例は鍼灸・漢方によって良好な維持が得られている一例であり、すべての持病疾患において同様の結果を保証するものではありません。

 

【症例紹介④ 大学病院で「慢性鼻炎」と診断された長引く鼻づまり・逆くしゃみ 】

精密検査を経て、あらゆるお薬でも改善が難しかった鼻症状に対し、お腹のケアと体質の熱を取ることで、穏やかな睡眠と日常を取り戻した症例です。

1.
患者情報
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患者: パピヨン(Sちゃん) オス 葛飾区
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初診時: 8歳(半年前から症状が悪化)
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通院ペース: 当初は週1 現在は10歳で、4週間に1回の定期メンテナンスで通院3年目

2.
これまでの経過
かかりつけ医にて3種類の抗生剤、ステロイド(内服・吸入)、去痰薬など、西洋医学的な治療を網羅されましたが、症状の改善が見られませんでした。大学病院での精密検査でも「慢性鼻炎」との診断。鼻づまりや夜間の逆くしゃみに、ご家族も心を痛めておられました。

3.
東洋医学的な視点と治療
当院では鼻だけを見るのではなく、Sちゃんの体全体の状態から以下の3つのアプローチを行いました。
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「お腹」から鼻を治す:
   S
ちゃんは軟便気味でお腹が弱い傾向にありました。東洋医学では「お腹の状態は呼吸器に直結する」と考えます。まずはお腹を整えることで、鼻の炎症を内側から鎮めました。
*
夜間の鼻詰まり(陰虚熱):
   
夜に症状がひどく眠れないのは、体内の「潤い」が不足し、余分な熱が鼻にこもっているサインです。この「熱」を漢方薬で優しく取る治療を行いました。
*
冷え対策(陽気の補充):
   
冷えると症状が悪化する性質があったため、鍼灸によって「陽の気(温める力)」を補い、外気の変化に負けない体作りを目指しました。

4.
治療経過
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開始〜3ヶ月: 症状に合わせて漢方薬を細かく調整しながら、鍼灸を併用。3ヶ月が経過する頃には、あんなに苦しそうだった鼻詰まりや逆くしゃみが改善しました。
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うれしい変化: 鼻が通って夜眠れるようになっただけでなく、軟便も解消し、良い便が出るようになりました。
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現在: 9歳になった今も、4週間に一度の定期通院を継続中です。冷えが原因で再発しないよう、お家でもお灸を取り入れていただき、良好なコンディションを維持しています。

副作用・リスク:・鼻炎の原因(アレルギー、構造的問題、腫瘍等)により、反応には個体差があります。
・漢方薬の飲み始めに一時的な便の状態の変化が見られる場合があります。

ご注意点:本症例は、標準的な西洋医学的治療で改善が困難だった症状に対し、東洋医学による体質改善を試みた一例です。

 

 

【症例紹介⑤ ヘルニア手術後の後遺症と、新たな歩行困難に対するリハビリケア 】

手術を受けた後も残る麻痺や、それまで使えていた足まで動かなくなる「二次的な歩行困難」に対し、鍼灸と漢方薬で全身のバランスを整えた事例です。


1.
患者情報
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患者: ペキニーズ(Fちゃん) オス 船橋市
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初診時: 5歳(20249月)
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現在: 7歳(通院15ヶ月 継続中)
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通院ペース: 最初は1週間おきに3回、現在は4週間に1回の定期メンテナンス


2.
これまでの経過
2023
2月に腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたFちゃん。術後、左後ろ足に弱々しさが残っていましたが、3ヶ月前から今度は右後ろ足まで散歩中に使えなくなり、前足だけで歩くような状態にまで悪化してしまいました。


3.
当院の東洋医学的アプローチ
当院では、足そのものだけでなく、「脳脊髄液の流れ」や「皮膚の違和感」など、全身のアンバランスに着目しました。
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「流れ」の再構築: 脳脊髄液の流れの滞りを整えることで、神経伝達をスムーズにし、麻痺している足への信号が届きやすい環境を作りました。
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皮膚炎への配慮: 足裏に皮膚炎があり、地面からの刺激が歩行を妨げる一因(違和感による舐め行動など)になっていたため、皮膚の治療も同時に行いました。
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オーダーメイドの漢方: 脊髄の回復をサポートし、体の中の「気」の巡りを助ける漢方薬を処方しました。


4.
治療経過
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初期: 鍼灸と漢方薬を開始し3週間で、以前と同じ自力での歩行が可能となりました。
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心の変化: 初めての鍼灸では落ち着かない様子だったFちゃんですが、回を重ねるごとに「ここは気持ちいい場所だ」と理解してくれました。
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現在: 6歳になった今も、4週間に一度の定期ケアを継続中です。今では診察室に入ると自分からお尻を向けて伏せをして、リラックスして施術を受けてくれるまでになりました。ご自宅でもご家族にお灸をしてもらい、心身ともに安定したシニア期への準備を整えています。

副作用・リスク:・脊髄疾患の経過には個体差があり、再発の可能性があるため継続的な観察が必要です。
・皮膚炎の状態により、使用する漢方や西洋的な内服薬、外用薬の調整が必要な場合があります。


ご注意点:本症例は、外科的手術後の後遺症や二次的な歩行困難に対し、東洋医学による機能回復を試みた一例です。

 

 

【症例紹介⑥ 繰り返す首・腰の痛みを整える「痛くない」鍼灸ケア

数年前から椎間板ヘルニアの再発に悩み、首や腰の痛みで元気をなくしていたMちゃん。鍼灸と漢方薬で血行を改善し、11歳になった今、笑顔でメンテナンスに通ってくれている事例をご紹介します。

1. 患者情報

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  • 患者: チワワ(Mちゃん) オス 台東区
  • 初診時: 920241月)
  • 現在: 1220262月現在継続中)
  • 主な症状: 首・腰の痛み、散歩中のふらつき(跛行)、痛みで座れずじっとしている

2. これまでの経過

2022年に椎間板ヘルニアと診断されたMちゃん。当時はステロイド治療を行いましたが、なかなかスッキリとは改善せず、以来、痛みがぶり返す日々が続いていました。大好きなおもちゃを振り回して遊んだ後に痛みのスイッチが入ってしまい、お部屋の隅でじっと耐えている姿をご家族も心配されていました。

3. 当院の東洋医学的アプローチ

初診時、Mちゃんは首を触られるのを非常に嫌がり、痛みに対してとても敏感になっていました。そのため、当院では「痛みを与えない、怖がらせない」治療を最優先しました。

  • 遠隔治療: 痛みがある部位(首や腰)に直接鍼はせず、そこから離れた手足のツボを使い、優しく刺激を送って痛みを和らげました。
  • 瘀血(おけつ)を散らすお灸: 痛みの原因となる血の滞り(瘀血)を、温かいお灸の力で散らし、全身の血行を促進しました。
  • 短時間・最小限の刺激: 不安を取り除くため、使うツボの数を絞り、短時間で「気持ちよかったね」と終わる施術を心がけました。
  • 漢方薬の併用: 痛みとしびれを取り除く生薬を処方し、内側からも巡りをサポートしました。

4. 治療経過

  • 初期(1ヶ月目): 週に1回のペースで4回施術。4回目には嫌がっていた首周りも触れるようになり、キャンと鳴くこともなく元気に動き回れるようになりました。
  • メンテナンス期: 状態が安定したため徐々に間隔を空け、現在は4週間に一度のケアを継続しています。
  • 現在: 12歳になった今も、来院時はニコニコと笑顔を見せてくれます。肩甲骨の間のスイナ(中国式マッサージ)が特にお気に入りで、久しぶりに付き添われたお父様が、Mちゃんのリラックスした様子を見て驚かれるほどです。

👨‍⚕️ メッセージ

 「病院=怖い場所」だと思っていた子が、回数を重ねるごとに「ここは気持ちいい場所だ!」と認識し、笑顔を向けてくれるようになること。それは治療効果と同じくらい、私たちにとって嬉しい瞬間です。

 特にヘルニアなどの慢性的な痛みは、緊張が体をさらに硬くさせます。鍼灸で心も体も緩めてあげることが、再発防止の第一歩となります。

副作用・リスク
・痛みの強い時期は、施術後の血行改善により一時的にだるさ(好転反応)が出ることがあります。

・椎間板ヘルニアは完全に消失するわけではないため、無理な運動による再発には注意が必要です。

ご注意点
本症例は鍼灸と漢方を継続することで、痛みのコントロールと生活の質の維持を行っている一例です。

 

【症例紹介⑦ 14歳のシニア犬:精神的な不安からくる「吠え」と「長引く下痢」へのアプローチ

 肺腺癌や靭帯断裂といった大きな病気を乗り越えてきたSちゃん。同居犬との生活環境の変化が引き金となった精神的な苛立ちや、シニア期特有の消化器の弱さを、鍼灸と漢方薬で整えた事例です。

1. 患者情報

  • 患者: ボーダーコリー(Sちゃん) オス 荒川区
  • 初診時: 14歳(20257月)
  • 現在: 15歳(継続治療中)
  • 主な症状: 夕方以降の毎日続く下痢、急に吠えるようになった(行動の変化) 

2. これまでの経過
Sちゃんは過去に肺腺癌の手術や両後ろ足の十字靭帯再建手術を経験した、非常に頑張り屋さんな子です。今回、毎日夕方になると下痢をしてしまうことや、それまでなかった「吠え」が目立つようになり、かかりつけ医にて整腸剤(サイリウム)や抗不安薬(トラゾドン)を処方されましたが、期待したような効果は見られませんでした。

3. 東洋医学的な視点と治療
ご家族のお話から、同居犬の体調不良と重なるようにSちゃんの症状が増えてきたことが分かりました。当院では単なる「お腹の病気」ではなく、心身の相関関係から以下のように診断(弁証)しました。

  • 肝鬱気滞(かんうつきたい): 同居犬に注目が集まることへの寂しさ、今までと違う動作をする同居犬に対しての苛立ちが「ストレス」となり、気の巡りが停滞。これが精神的な「吠え」を引き起こしていました。
  • 肺脾気虚(はいひききょ): もともと肺やお腹のエネルギー(気)が不足しやすい体質に加え、ストレスがさらに消化器(脾)を攻撃することで、夕方に体力が尽きて下痢になっていました。

 4. 治療経過 

  • 初期: 鍼灸治療で気の滞りをスムーズにし、肺とお腹の力を補う漢方薬の内服を開始しました。
  • 中期: 治療を重ねるごとに、「吠え」が徐々に落ち着いていきました。漢方薬の処方をその時々の状態に合わせて調整することで、しぶりを伴う下痢も目に見えて減っていきました。
  • 現在: 15歳を迎えた今、同居犬との関係も良好になり、下痢はほぼない状態を維持しています。現在は月に一度のメンテナンス通院を通じて、心身ともに穏やかなハイシニア期を過ごせるようサポートを継続しています。

👨‍⚕️ メッセージ
シニア期の「吠え」や「下痢」には、言葉にできない不安やストレスが隠れていることが多々あります。特にお利口に過ごしてきた子ほど、環境の変化を体で表現してしまうことがあります。Sちゃんのように、心のバランスを整えることで、お腹の症状まで改善していくのが東洋医学の興味深いところであり大きな強みです。

副作用・リスク

・環境因子の影響を強く受けるため、家庭環境の調整(接し方の工夫など)が並行して必要になる場合があります。

・高齢犬のため、腫瘍の再発やその他の内臓疾患が隠れていないか定期的なチェックが必要です。

ご注意点
本症例は、西洋医学的な対症療法で改善が見られなかった「心身症的」な症状に対し、東洋医学による全身アプローチが有効であった一例です。

 

【症例紹介⑧ 15歳のシニア犬:認知症状やふらつきに対する「統合医療」でのサポート

 認知機能の変化や、平衡感覚の乱れによる「ぐるぐる回る(旋回)」といった症状に対し、今飲んでいるお薬を継続しながら、鍼灸と漢方薬で「生活の質」を底上げした事例です。

 

1. 患者情報

  • 患者: ボーダーコリー(Tちゃん) メス 荒川区
  • 初診時: 1520257月)
  • 現在: 15歳(継続治療中)
  • 主な症状: 眼振(目が揺れる)、旋回、座り込み、後肢の突っ張り、食欲不振、認知症状

 2. これまでの経過

 初診の2か月前から、目が揺れたり、ぐるぐる回って立てなくなるといった症状が現れ始めたTちゃん。15歳という高齢を考え、飼い主様はMRIなどの負担がかかる精密検査ではなく、「残された時間をいかに快適に過ごさせてあげられるか」を最優先に考え、当院の鍼灸・漢方薬外来を訪ねられました。

 3. 当院の統合医療的アプローチ

 Tちゃんはすでにかかりつけ医にて、神経や不安を和らげるお薬(ガバペン、トラゾドン、イソソルビド等)を処方されていました。当院ではこれらの西洋薬を継続しながら、東洋医学をプラスする「併用治療」を行いました。

  • 脳脊髄液の循環を整える: 脳や脊髄の巡りをスムーズにする漢方薬を処方し、認知症状や平衡感覚の乱れによる「不快感」の軽減を目指しました。
  • 物理的なバランスのサポート(ワンひも): 「犬のヒモトレ(ワンひも)」を装着。ひもによる心地よい刺激が、高齢によりバラバラになりがちな体全体の感覚を繋ぎ、立ち上がりや動作の安定を助けました。
  • お腹の「気」を補う: 15歳という年齢では、体力の源である「食」が重要です。秋に長引いた下痢の際も、お腹のエネルギー(気)を高める鍼灸と漢方で、速やかな回復を促しました。

 4. 治療経過

  • 初期: 治療を始めてから、少しずつ楽に動ける時間が増え、夜も以前より眠れるようになってきました。
  • 中期〜現在: 15歳半を迎えた現在。食欲には日によって波がありますが、ここ半年間はひどい下痢もなく、穏やかに過ごせる日が続いています。完治が難しい高齢期の症状であっても、東洋医学を併用することで「体調の波」を小さくし、ご家族との大切な時間を守り続けています。

 👨‍⚕️ メッセージ

 西洋医学と東洋医学には、それぞれに異なる利点があります。当院では「どちらか一方」に絞るのではなく、両方の良いところを組み合わせて、その子にとってのベストを探る「併用治療」を多く行っています。

 Tちゃんのように、精密検査は望まないけれど「少しでも楽にしてあげたい」という願いに、東洋医学は非常に優しく、力強く応えることができます。

 副作用・リスク
・高齢による脳の器質的変化や認知機能の低下そのものを止めるものではありません。

 ・体調の波が激しい時期は、低気圧や気温変化による影響を受けやすいため注意が必要です。

ご注意点
本症例は、かかりつけ医による西洋医学的治療と当院の東洋医学を併用し、QOL(生活の質)の維持を図っている一例です。